格闘ゲームとキャリア

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プロライセンスは機能しているか。JESUの存在意義とは?


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現行のプロライセンス制度を考える

 

団体概要

JESU(Japan esports Union)

一般社団法人日本eスポーツ連合

 

設立趣旨

1.eスポーツ振興に関する調査、研究、啓発
2.eスポーツ競技大会の普及
3.eスポーツ競技大会におけるプロライセンスの発行と大会の認定
4.eスポーツ選手育成に関する支援
5.eスポーツに関する関係各所との連携

 

 

日本におけるeスポーツの発展を推し進めるための団体であり、一般社団法人日本eスポーツ協会、一般社団法人e-sports促進機構、一般社団法人日本eスポーツ連盟の3つが合併して出来たのがJESU(一般社団法人日本eスポーツ連合)、そのため名前に“連合”とついているわけである。

 

eスポーツとは

ここでまず“eスポーツとは何か”から出発してみる。

 

「eスポーツ(esports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲームビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。

(JESU ホームページ、「eスポーツとは」より

jesu.or.jp

 

JESU自体が“eスポーツ”を“電子機器を用いた対戦競技”であると示している。

eスポーツ自体は一つの“競技”ではなく、“電子機器”という共通項を持つ競技、つまりいくつかあるスポーツの中の一“ジャンル”に過ぎないことが分かる。JESUはこの“ジャンル”を統括する協会というわけだ。

言い換えればサッカーや野球、バスケットボール、バレーボール、ハンドボールなどを“球技”として全体を流行らせよう、推進していこう、というようなものである。

一つ一つのゲームタイトルごとに求められるスキルや技術が全く異なるはずなのに、統括的に組織が出来上がっている現状には少し問題点があるのではないかと感じている。

 

 

プロライセンス制度とは

JESUが常々言っていたのは、日本においては開発元が大会への高額賞金を出せないことがeスポーツ発展の障壁だという主張だ。これは景品表示法の中で、販売誘導に当たる場合の賞金は、商品の20倍まで及び上限10万円以下と定められているからだ。

しかしながらJESUの発行するプロライセンスを所持しているプロゲーマーは、開発元と個別に契約をすることによって“仕事”の報酬として賞金を受けとることが出きるのだという。

この仕組みの問題点はそもそもJESUの発行するライセンス自体は不可欠なものではないという点である。開発元が個別に契約を結ぶ以上、JESUのライセンスがあるかないかは本来関係ないはず。

つまり誰が優勝したとしても、その人物に開発元が何かしらの労務契約を結び、その対価として実質的な賞金を支払うことは現状でも可能なのである。

 

※追記(2019年2月17日)

CAPCOMカップにおいて上位入選を果たしたが、ももち選手は賞金が10万円しか貰えなかったという問題が発覚した。evojapanはCAPCOMの出す賞金ではないため、この件とは関係なく賞金150万円を手に入れられるが、CAPCOMカップの今後の在り方は問われてくるだろう。

 

しかし彼らの主張によると、開発元が誰とでも個別に契約を結ぶという行為はコンプライアンス的に問題があるので、JESUという機関を通してライセンスを発行することで、選手の専門性を担保するということらしい。

三者機関として専門性を担保することで、開発元が契約して実質的な賞金を支払ったとしても整合性が取れるということのようだ。(BeasTV 緊急座談会 ゲームと金 1:15:00~)

youtu.be

 

ここでまた問題になるのは、専門性の担保がJESUを通さなければ行われないという欺瞞である。JESUの主張の通りであれば、開発元自身で契約相手を選定するのは景表法に引っ掛かる恐れがあり、必ずJESUのライセンスを持っているプレイヤーでなければならない。

しかしJESUのプロライセンス発行の基準は不透明感が否めない。ライセンスの規約によると、ライセンス認定大会で顕著な成績を残す以外にも、IPホルダー(開発元)による推薦、協議によってもプロライセンスの発行は認められる。またJESUの認定に関係のない海外大会においても、顕著な成績を収めた場合はIPホルダーとの協議を経てライセンスが発行される場合もあると言う。(※JeSU公認プロライセンス規約より)

https://jesu.or.jp/wp-content/themes/jesu/contents/pdf/agreement-license.pdf

 

IPホルダーの密接な関与の中でライセンス発行が決められているのは明白である。

その一方で、JESUがプロライセンスを発行することで選手の専門性を担保する、という論理は通用するのだろうか。結局のところIPホルダーが直接的にプロを選定しないだけで、ある程度の意向は組む仕組みになっている。

つまり実質的にIPホルダーが決めているのと何ら変わらない。IPホルダー自身が個人を指定して労務契約を結び、その者に仕事の報酬として賞金(に近い)ものを支払うことがコンプライアンス的に問題があるとのことだが、現状のライセンス制度では専門性を担保出来ていない。さらには専門性の担保どころか、協会の独立性も危うい。

ゲームの大会である以上、IPホルダーとの関係は重要であるが、プロの選定にIPホルダーの関与が強すぎれば、それは実質的にJESUの存在が不必要なことと同じになる。

JESUが必要というのならば、独立性を高め、専門性の担保が客観的な視点からもなされる仕組みを用意しなければならない。

 

ライセンス制度の実態

ストリートファイターVに限って言えば、大会の主戦場は海外であり、JESUのプロライセンスがあろうがなかろうが実際には殆ど関係がない。特に格闘ゲーム個人競技であるため、国の代表チームを派遣するというようなこともない。

ストリートファイターVCAPCOMプロツアーという形式を採り続ける限り、日本国内におけるプロライセンスの必要性はあまりない。年に数回の国内大会に参加出来るというだけだ。現にシノビズムのももち氏はライセンスを受け取っていない

※2019年12月2日にプロライセンスを取得したとのこと

 

しかし彼が変わらずストリートファイターVの第一線で活躍するプレイヤーであることには変わりない。

 

 

ライセンス制度の改善案

いくつか足らない頭をひねって考え出してみることにする。

 

1.ライセンス発行基準が厳格化+明確化

→基準がはっきりしていない原因はJESUが“ジャンル”の統括団体だから。例えて言えば、球技の推進団体がサッカーとバスケのプロ認定を行っていたら当然疑問に思うだろう。サッカーとバスケで専門性が全く異なるのだから、同じように現状のJESUに選手の専門性を担保する力などないのだ。

そのためにまずは発行基準を厳格化、明確化する。将棋の奨励会制度は非常に厳しいことで有名だ。天才中の天才でなければ、そもそもプロになることも難しい世界。しかしながらその厳しさゆえに、プロとしての専門性が担保されるのである。厳密に定められた基準を基にプロへの道が敷かれているので、明確でもある。

奨励会制度のような厳格な篩(ふるい)を設けることで、専門性を担保するというアプローチは有効なのではないか。

 

2.ライセンス発行基準の緩和

→こちらは先ほどの案とは全く正反対の主張。ライセンスをばんばん出しまくってしまえ、というもの。これはボクシングの制度をモデルにしたものだ。

ボクシングのライセンスはA(8回戦以上)、B(6回戦)、C(4回戦)とレベル別に分かれていて、基準を満たすと上のライセンスに切り替えることが出来るというもの。しかしながら現状のプロツアーの仕組みやトーナメント方式の大会などの場合、この制度にしたところで意味は殆どないだろう。何故ならば、JESUのライセンス発行の目的は選手の専門性担保であって、ライセンス自体をABCとレベル別に発行する意味がないからである。

ボクシングのようなライセンス制度にするには、個人同士の試合が組まれてPPV(ペイ・パー・ビュー)によるファイトマネーが両者に入るような仕組みが必要だ。まさにボクシングと同じ対戦の仕組みを採用することで、トーナメントよりも個人の対戦に重きを置くことで、ライセンス制度の必要性を見いだすアプローチである。

例えば5回戦、7回戦、10回戦のような分け方を用意し、それぞれ5先、7先、10先によって勝敗を決する。いくつかの基準をクリアすれば上にいけるような仕組みにすれば良い。ライセンス自体がレベル別に分かれているので、自ずと10回戦のプレイヤーのレベルは高まる上に、PPVを成功させるほどのマッチメイクはとてつもない商業的な価値を生む。トーナメント方式よりも、よりプレイヤー同士の因縁が浮かび上がりやすいのもボクシングの仕組みの特徴である。ボクシングは個人競技であるから、格闘ゲームが学ぶ部分はたくさんあるのではないか。

 

まとめ

結局現在のJESUでは選手の専門性を担保出来る仕組みがない。それはJESUの存在理由がないことを意味するため、早急に改善しなければならないだろう。

改善のアプローチにはいくつかあり、IPホルダーからの独立性を強めてプロライセンスを発行すること、基準が明確化すること、ライセンス制度をボクシングスタイルにすること、などが考えられる。いずれもまた多くの問題を抱えているが、現状のJESUが居ても居なくても変わらない状況からは変わるのではないか。

分かりやすい問い合わせ先が生まれたことは喜ぶべきことだが、それに恥じない組織であってほしい。JESUという新しい試みは良いことだと思うので、是非それを良い方向に生かしていければ。現在のゲームコミュニティとともに発展していければ、自ずとJESUへの理解も少しずつ進んでくるだろう。

 

日本での格闘ゲームの更なる発展のために、自分の出来る範囲のことからやっていきたい。

「自分の好きな格闘ゲームが、ずっと続いて欲しいからね」

変わらずに、

格闘ゲームを楽しんでいる様子を発信し続けていきたいと思う。